「親の借地権付きの家を相続したら、地主から名義変更料を求められた」
「結婚して名字が変わったけれど、借地契約も直すべき?」
どちらも「名義変更」と呼ばれますが、必要な手続きは同じではありません。
まず確かめたいのは、借地権を持つ人が変わるのか、地主の承諾が必要なのか、建物や土地に登記された権利を変更する必要があるのかという3点です。相続・売買・贈与・氏名変更では、用意する書類も費用も違います。
自分の場合はどこを直せばよいのか。借地契約、地主への連絡、建物の登記を分けて見ていきましょう。
借地権の名義変更では「借地契約」と「建物の登記」を区別する

借地に建つ家は自分や親の所有でも、土地は地主のものです。借地契約書と土地・建物の登記事項証明書を見比べ、どの名義を変更する必要があるのか確認しましょう。
| 名義・権利 | 変更が必要か確認すること |
|---|---|
| 借地契約の借地人 | 誰が土地を借りる立場になるか。地主へ連絡・承諾を求める必要があるか |
| 借地上の建物の所有者 | 相続・売買・贈与による所有権移転か、同じ人の氏名・住所変更か |
| 土地に登記された地上権・賃借権 | 登記がある場合、権利の移転・変更登記も必要か |
| 地主の土地所有権 | 借地人の相続・売買では、通常、地主の土地所有者を変更するわけではない |
また、土地賃借権と地上権では、ほかの人へ権利を移す際の承諾の扱いが異なります。契約書に「借地権」とだけ書かれている場合も、土地の登記などで権利の種類を確かめておきましょう。
原因別に確認する地主の承諾
| 名義が変わる理由 | 土地賃借権についての基本 | 建物で確認すること |
|---|---|---|
| 通常の相続 | 相続による承継自体に承諾は原則不要。地主への連絡は必要 | 所有権の相続登記 |
| 第三者への売買・生前贈与 | 譲渡について地主の承諾が原則必要 | 取得者への所有権移転登記 |
| 遺贈 | 受け取る人・遺贈の形式により個別判断 | 遺言書を踏まえた取得者・登記原因 |
| 結婚・転居などで氏名・住所だけ変わる | 本人が同じなら通常は権利譲渡ではない | 所有者の氏名・住所変更登記 |
| 離婚の財産分与・個人から法人への移転 | 別の主体へ土地賃借権が移るなら承諾を原則確認 | 所有権移転・融資・税金 |
| 同一法人の商号変更 | 法人自体が同じなら通常は譲渡ではない | 法人の名称変更登記 |

相続では地主さんの承諾がいらないのに、売るときは必要になるんですか?

そうなんです。相続で親御さんの借地権を引き継ぐことと、家を売って別の人へ借地権を渡すことは違います。土地賃借権なら、売るときは地主さんの承諾も確認しましょう。
相続で名義が変わる場合は、地主への連絡と建物の相続登記を進める

親などが亡くなり、相続人が借地権を引き継ぐ場合、通常の相続そのものに地主の譲渡承諾は原則必要ありません。「相続で名義が変わるから」と料金を求められても、第三者へ売る際の譲渡承諾料と同じものだとは限りません。何の費用なのか、契約書や覚書に根拠があるのか、更新料などが含まれていないかを確認しましょう。
承諾が不要でも、土地を借りる関係は続きます。地主には元の借地人が亡くなったことと当面の連絡先を伝え、地代の支払方法を確認してください。誰が家を引き継ぐか決まっていなければ、その状況もそのまま伝えましょう。
地主への連絡で建物の登記まで完了するわけではない
借地上の建物が親名義なら、建物を引き継ぐ相続人は所有権の相続登記も確認します。相続によって不動産を取得したことを知った日から、原則として3年以内に申請する義務があります。遺産分割で取得する人が決まった場合には、その成立日から3年以内の追加的な登記義務もあります。
相続登記の義務化前から取得を知っていて未登記の場合は、原則2027年3月31日までという経過措置上の期限にも注意してください。通常の建物の相続登記の登録免許税は、原則として固定資産税評価額の0.4%です。評価額500万円なら単純計算で2万円。戸籍の取得費や司法書士報酬は別に見込みます。
参考:法務省「相続登記の申請義務化について」/国税庁「登録免許税の税額表」
相続したばかりで、誰が借地権と家を引き継ぐか決まっていない方は、地主への連絡や地代の支払い、家族間の費用負担について、こちらも参考にしてください。

土地賃借権・地上権と建物登記の違いや、登記が借地権の対抗力にどう関わるかは、こちらで確認できます。

売買・贈与・財産分与で借地人が変わるなら、地主の承諾を確認する

借地権付きの家を売ったり贈与したりするときは、建物の名義を移すだけでなく、新しい持ち主がその土地を使えるかも確認しなければなりません。土地賃借権の第三者への譲渡は、民法612条により地主の承諾が原則必要です。建物の登記だけ先に変えても、借地契約の問題が片付くわけではありません。
売買では、承諾条件と建物の移転登記を合わせる
- 借地契約、更新書類、土地・建物の登記から、今の権利者と条件を確認する。
- 不動産会社と買主の条件を整理し、地主に譲渡承諾の相談をする。
- 承諾の対象、承諾料を誰がいつ負担するか、建て替え・融資に関係する書類を確認する。
- 売買契約の条件、決済・引渡し、建物の所有権移転登記、地主との書面を整合させる。
「名義変更料は借地権価格の10%」と聞いたことがあるかもしれませんが、一律10%という法律上の料金はありません。地主から提示された金額の計算根拠と、承諾料のほかに地代・借地期間・建て替え条件まで変わるのかを確かめましょう。
家を売る予定の方は、買主の探し方や地主への相談、売却費用を差し引いた手取りの考え方も知っておくと進めやすくなります。

地主に断られても、無断で名義を移さない
土地賃借権の譲渡を地主が認めない場合、一定の要件のもとで借地借家法19条に基づく裁判所の許可を検討できることがあります。ただし、申し立てれば必ず認められる制度ではありません。
地主に断られたときは、何が理由なのかを確認してから次の対応を考えましょう。協議の進め方や裁判所への申立てについては、こちらも参考にしてください。

贈与・遺贈・離婚・法人化は「名前だけの変更」と思わない
親が元気なうちに子へ借地権付きの家を贈与する場合は、将来相続する予定であっても、通常の相続とは扱いが異なります。土地賃借権の譲渡承諾に加え、贈与税や建物の移転登記にかかる費用も確認しましょう。
遺言によって取得する場合は、相続人が引き継ぐのか、相続人以外が特定遺贈を受けるのか、包括遺贈なのかなどによって判断が異なります。遺言書と借地契約書を司法書士・弁護士に見てもらい、承諾と登記について確認してください。「遺言で渡せば、誰でも地主の承諾は不要」とは考えないようにしましょう。
離婚で本人の名字が変わるだけなら氏名変更ですが、財産分与によって借地権付きの家を元配偶者へ渡すなら、権利を持つ人が変わります。住宅ローンが残っている場合は金融機関にも相談しましょう。また、自分が経営する会社でも個人とは別の主体です。個人から法人へ土地賃借権を移す場合も、名前の書き換えだけでは済みません。
結婚・転居・商号変更は、借地契約の連絡先と登記の氏名・住所を確認

結婚で「山田花子」から「鈴木花子」になった場合や、引っ越して住所が変わった場合は、本人が同じなら通常は借地権を別の人へ譲ることにはなりません。地主へ新しい氏名・住所を伝え、借地契約の表記や地代の請求先をどう直すか確認しましょう。法人の商号変更も、法人自体が同じなら別法人への譲渡とは異なります。
建物の所有者の氏名・住所変更登記は原則2年以内
不動産の所有権の登記名義人は、住所や氏名・名称が変わった日から原則2年以内に変更登記を申請する義務があります。これは2026年4月1日から始まった制度で、正当な理由なく怠ると5万円以下の過料の対象となる可能性があります。
2026年4月1日より前に変更したまま登記が古い場合は、原則2028年3月31日までが経過措置上の期限です。通常の住所・氏名変更登記の登録免許税は、不動産1個につき原則1,000円。相続で別の人が所有者になる場合の0.4%とは異なります。
「スマート変更登記」は、所定の検索用情報を申し出ることで、住所・氏名の変更を法務局が確認し、職権で登記する仕組みです。対象や申出方法を確認し、借地上の建物の登記が現在の内容になっているか見ておきましょう。
名義変更に必要な書類と費用は、変更の原因ごとに準備する

「借地権の名義変更」といっても、どのケースにも使える共通の書類一式があるわけではありません。地主に見せる書類と、法務局へ提出する書類を分けて準備しましょう。
| 原因 | 主に集めたい資料 | 費用・税金の確認 |
|---|---|---|
| 相続 | 借地契約書、戸籍、遺言書・遺産分割協議書、建物の登記 | 建物の相続登記、司法書士報酬、相続税の申告要否 |
| 売買 | 借地契約書、建物の登記、地主の承諾書、売買契約書 | 譲渡承諾料、仲介手数料、登記費用、譲渡所得税 |
| 贈与・財産分与 | 贈与・財産分与の書類、借地契約、建物の登記、地主の承諾関係 | 登記費用、承諾料、税金・融資の個別確認 |
| 氏名・住所変更 | 戸籍・住民票等、建物の登記、借地契約書 | 変更登記の登録免許税など |
古い借地契約ほど、新しい書面の変更点を読む
親や祖父母の代から続く借地では、最初の契約書が見つからず、地代の振込記録や更新時の覚書しか残っていない場合もあります。それだけで借地権がないと決めつけず、地主が保管している書類や土地・建物の登記も調べましょう。
地主に新しい契約書への署名を求められたら、名前だけが変わるのか、地代・契約期間・更新料・建て替え条件・譲渡条件まで変わるのかを、以前の書類と見比べてください。旧借地法から続く契約なら、借り始めた時期と更新歴も確認したいところです。「名義を直すだけ」のつもりで、ほかの条件まで変更していないか気をつけましょう。
相続が原因なら、借地権と家を誰が引き継ぐかだけでなく、相続税の申告が必要かも確認しておきたいところです。借地権の評価額や小規模宅地等の特例はこちらで解説しています。

誰も住まない家なら、名義を直した後の費用と売却条件も考える

相続した家に誰も住まない場合、名義変更にかかる費用だけでなく、持ち続ける間の負担も考えておきましょう。地代が月2万円なら年24万円、5年間で120万円です。建物の税金・保険・修繕費は別にかかります。
名義を整えるためにかかるお金と、使わない家を今後も持ち続けるためのお金は分けて計算しましょう。住む予定がないなら、借地権付きの家を売った場合にいくら残るかも比べたいところです。税務上の借地権評価額と実際の売却査定額の違いは、こちらで確認できます。

相続放棄するか迷っている方は、売買契約や解体を進める前に期限を確認してください。相続財産の処分で気をつけたいことは、こちらを参考にしましょう。

地主にどう話せばよいか分からない、今の借地契約で売れるか知りたいという方は、借地権を扱う不動産会社に契約書と現状を伝えて相談する方法があります。次の相談窓口も選択肢ですが、対応地域や費用が発生する条件は確認しておきましょう。
古い家や共有、再建築不可などの事情があって買主を探しにくい場合は、専門会社の直接買取も比較できます。買取額だけでなく、地主への連絡や費用負担、引渡しまでの期間も聞いてみましょう。
仲介で売る場合と専門買取では、査定額だけでなく費用や契約条件も違います。両方を比べたい方は、こちらも参考にしてください。

まとめ|借地権の名義変更は「原因・承諾・登記」を順番に確認

借地権の名義を変更するときは、まず何が理由で名前が変わるのか確認しましょう。相続なら地主への連絡と建物の相続登記、売買・贈与なら土地賃借権の譲渡承諾と建物の移転登記、結婚や転居なら氏名・住所変更登記というように、必要な手続きは異なります。
地主から新しい書面への署名や料金の支払いを求められたら、誰から誰へ何の権利が移るのか、元の契約と比べて費用・期間・建て替え・譲渡条件が変わらないかを確かめましょう。借地契約と登記の両方を整えておけば、将来の相続や売却も進めやすくなります。
※借地契約の承諾・遺贈・財産分与などの法律問題は弁護士や司法書士、個別の税務は税理士へ確認してください。


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